Research
神岡地下でのニュートリノ質量・レプトン数非保存の探索
KamLAND / KamLAND-Zen / KamLAND2-Zen
神岡地下に設置された大型液体シンチレータ検出器 KamLAND を用いて、ニュートリノ、暗黒物質、稀現象探索に関する宇宙素粒子物理学の研究を進めています。特に現在は、ニュートリノレス二重ベータ崩壊($0\nu\beta\beta$崩壊)発見を目指して、KamLAND2-Zenの準備を進めています。
KamLAND-Zen は、KamLAND の中心部にキセノンを導入し、$^{136}$Xe の$0\nu\beta\beta$崩壊を探索する実験です。この崩壊が発見されれば、ニュートリノが自分自身の反粒子であることを示し、ニュートリノ質量の起源や物質優勢宇宙の理解に大きな手がかりを与えます。
初期フェーズである KamLAND-Zen 400 では、宇宙線核破砕起源バックグラウンドを低減するための三重遅延同時計測法を開発し、それを基盤として世界最高感度での探索を進めました [PRL 117, 082503 (2016)]。2019年に開始した KamLAND-Zen 800 では、液体シンチレータの純化と Xe 溶解液体シンチレータ容器の開発 [JINST 16, P08023 (2021)] を行い、世界で初めて発見が期待できる感度領域での探索を実現しました [PRL 135, 262501 (2025)]。同研究では発見には至らなかったものの、$0\nu\beta\beta$探索の国際的な到達点を大きく前進させました。また、期間中は電子回路・DAQの責任者として、安定した長期データ取得を支えました。
現在は、KamLAND-Zen の世界的なリードをさらに発展させ、世界初の $0\nu\beta\beta$発見を目指す KamLAND2-Zen 計画に向けた準備を進めています。特に、電子回路・DAQ系の導入を責任者として推進しており、RFSoCを用いた独自のフロントエンド電子回路の開発にも成功しました [JINST 19, P03013 (2024)]。また、KamLANDでは実現が難しかった高感度な太陽ニュートリノ観測を目指し、銀ゼオライトを用いた Rn 除去システムの立ち上げも進めています。
KamLAND では、原子炉ニュートリノ・地球ニュートリノ研究に加え、天体ニュートリノや暗黒物質に関連する稀な信号探索にも取り組んできました。これまでに、太陽フレア起源ニュートリノ過剰問題の検証 [ApJ 924, 103 (2022)]、超新星ニュートリノによる銀河系星形成率への制限 [ApJ 934, 85 (2022)]、超新星前兆ニュートリノの検出可能性評価とアラームシステム開発 [ApJ 818, 91 (2016); ApJ 973, 140 (2024)] などを進めてきました。また、超新星前兆ニュートリノに関するレビュー論文 [Annu. Rev. Nucl. Part. Sci. 70, 121–145 (2020)] も執筆しました。
Representative papers
- Search for Majorana Neutrinos with the Complete KamLAND-Zen Dataset
Phys. Rev. Lett. 135, 262501 (2025) - RFSoC-based Front-end Electronics for KamLAND2-Zen
JINST 19, P03013 (2024) - Limits on Astrophysical Antineutrinos with the KamLAND Experiment
Astrophys. J. 925, 14 (2022)
神岡地下 CryoLab と γ線TESによる稀現象探索
神岡地下に、低放射能・低雑音の極低温検出器基盤を構築しています。この計画では、高エネルギー加速器研究機構 量子場計測システム国際拠点(QUP)と共同で希釈冷凍機を導入し、100 mK以下の極低温環境で超伝導センサーを運転します。私たちはこの地下極低温実験基盤を CryoLab と呼んでいます。
CryoLab の目的は、単に地下に冷凍機を置くことではなく、低放射能環境、低雑音読み出し、遮蔽、中性子・$\gamma$線バックグラウンド評価を組み合わせ、地下で量子センサーを安定に運用する新しい稀現象探索基盤を作ることです。特に、東北大学では$\gamma$線TESと呼ばれる高分解能超伝導センサーを用いて、従来の半導体検出器や液体シンチレータでは難しい、試料そのものを検出器として用いる source = detector 構成での高分解能測定を目指しています。
具体的な物理対象としては、$^{180m}$Ta の希少崩壊探索、暗黒物質誘起脱励起、$^{112}$Sn などを用いた ECEC/β+EC 系の稀崩壊探索を検討しています。これらは大型検出器での探索とは異なる、高エネルギー分解能・高検出効率・低バックグラウンドという特徴を活かした相補的な稀現象探索です。
現在は、遮蔽システム開発、中性子測定とバックグラウンド評価、低放射能材料の選定、装置インフラ整備、極低温での長期安定運用に取り組んでいます。
Representative papers
- Probing Internal Conversion and Dark-Matter-Induced De-excitation of $^{180m}$Ta with a Gamma-ray TES Array
Phys. Rev. D 113, 052007 (2026)
現象論・理論との共同研究
LNV・暗黒物質・宇宙論との接続
実験で得られるデータや将来実験の感度を、新しい物理の言葉で解釈するため、理論研究者と連携した現象論研究も進めています。特に、レプトン数非保存、暗黒物質、宇宙論、天体物理と地下実験を接続する研究に関心を持っています。
レプトン数非保存に関しては、$0\nu\beta\beta$崩壊探索の結果を単にニュートリノ有効質量に換算するだけでなく、低エネルギー有効演算子の観点から解釈する研究を進めています。複数同位体・複数実験の結果を比較することで、どのLNV機構に対して、核行列要素の不定性に依存しにくい制限が得られるか、また将来発見された場合にどのように機構を識別できるかを調べています。今後は、UV模型、宇宙論、加速器実験との接続にも展開することを考えています。
暗黒物質に関しては、地下検出器による直接探索だけでなく、既存データを用いた新しい制限導出や、地球物理・宇宙論と組み合わせた相補的な探索に取り組んでいます。具体例として、放射化学太陽ニュートリノデータを用いたフェルミオン暗黒物質(FDM)吸収の制限、超新星アクシオン探索、暗黒物質誘起核脱励起、暗黒物質の地球捕獲と地球熱史を用いた制限などを進めています。
このように、実験装置の開発・データ解析・現象論的解釈を接続することで、地下稀現象探索からどのような基礎物理が引き出せるかを明らかにすることを目指しています。
Representative papers
- Theoretical Prediction of Presupernova Neutrinos and Their Detection
Annual Review of Nuclear and Particle Science 70, 121–145 (2020) - Supernova-scope for the Direct Search of Supernova Axions
JCAP 11, 059 (2020) - Probing Internal Conversion and Dark-Matter-Induced De-excitation of $^{180m}$Ta with a Gamma-ray TES Array
Phys. Rev. D 113, 052007 (2026) - Constraints on Fermionic Dark Matter Absorption from Radiochemical Solar-Neutrino Measurements
PTEP 2026, 043F03 (2026) —
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